2011年7月20日水曜日

”放射能もれ” のデマ ・ 人々の不安や恐怖心を煽るのは誰だ!



海外にまで大きな波紋を広げている「放射能漏れ」

前代未聞!中国でのデマ騒動 (その詳細)



・放射能に効く!?食塩買い占め騒動

東日本大震災による巨大津波で損傷を受けた福島第一原子力発電所のプラントが、放射能漏れを起こしているというニュースは世界を駆け巡った。

世界中の人々は、1986年に当時のソビエト連邦(現ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所で発生した事故による深刻な放射能漏れを想起し、日本から飛散してくるかもしれない放射能による汚染を懸念した。
 
原子力施設の事故により放出される各種放射性物質のうちの放射性ヨウ素は、呼吸や食物から体内に取り込まれ、甲状腺に選択的に集積して、甲状腺がんを引き起こす可能性がある。

この予防には事前のヨウ素剤摂取が有効で、放射性ヨウ素の甲状腺への集積を防ぐとともに排便・排尿で体外へ排出させて、がん発生のリスクを軽減させることができる。

このため、放射能汚染を懸念する世界各地でヨウ素剤の売り上げが急増する事態となった。

・海が汚染される前に食塩を買いだめ 

中国では3月16日頃から市民による食塩の買いあさりが始まった。3月19日付の経済紙「華夏時報」によれば、この食塩の買いあさりは浙江省から始まって、瞬く間に全国の諸都市に広まったものだと言う。この動きは食塩のみならず、塩気の強い醤油や味噌漬けにも波及した。
 
なぜ食塩が買いあさりの対象となったのかというと、中国の食塩はヨウ素(別名:ヨード)が添加された「ヨード食塩」だからである。

中国の食塩は日本の海塩と異なり岩塩で、ヨードが含まれていないので、調味料として岩塩ばかり使っていると、ヨード欠乏症となって、児童の脳の発達障害や成人の甲状腺機能低下による甲状腺腫を発症する。

これを憂慮した中国政府は、1996年に「食塩にヨードを添加する法律」を制定し、食塩のヨード塩化が義務付けられた。
 
日本の原子力発電所事故による放射能汚染の恐れがあると聞いて、中国国内の誰かが「ヨードは汚染防止に効果があるから、ヨードが含まれている食塩を食べれば良い」というおよそ学術的な裏付けのない知識をひけらかしたものと思われる。

これがうわさ話として中国伝統の"小道消息(口コミ)"により全国へ急速に伝えら、うわさを信じた市民が食塩を買うためにスーパーマーケットや食料品店に殺到したのである。
 
市民が食塩買いあさりに狂奔したもう1つの理由は、「食塩は海塩だから、放射能により海が汚染されたら塩も汚染される。

海が汚染される前に食塩を買いだめしておけば安心だ」というものであり、この誤解に基づく噂も市民を食塩買いに走らせるのに十分な根拠となった。

・事があるとヨード添加の食塩は万能薬に 

多くの都市の食品売り場で、食塩を買い求める客の列が数百メートルにも及び、多数の商店が屋外に食塩売り場を特設し、客1人当たりの販売数量を3袋程度に限定した。

どこの商店も開店後間もなくで食塩は売り切れとなり、買いそびれた客は食塩を求めて何軒もの商店を渡り歩く状況となった。
 
ところで、食塩の通常価格はプラスチック袋入り500グラムが1.5〜2元(約19〜25円)であるが、こうした品不足の状況下では売り渋りして値段を吊り上げて稼ごうとする悪徳商人が出現するのは、これもまた中国では毎度のことである。

今回も500グラム入り1袋の食塩が5元、10元、果ては20元まで価格が吊り上げられた地域があった。

・関連企業の株価も乱高下した 

広東省では3月16日以来、市民から420件の告発を受けて食塩の価格取締りを行い、13件の違反を摘発し、通常価格が500グラム袋で1.3元(約17円)のところを10元および15元で販売していた恵州市のスーパーマーケットおよび順徳市の百貨店に対して1000元(約1万2500円)の罰金を科した。
 
明けて18日になると中央政府の発表を受けて食塩の買いあさり騒ぎはようやく沈静化した。

株式市場でも製塩業関連株は取引開始と同時に一斉に下げに転じ、前述の製塩大手3社の株式の終値は前日比で「雲南塩化」がマイナス7.55%、「蘭太実業」がマイナス9.98%、「双環科技」がマイナス5.17%とそれぞれ大きく下落した。
 
市民による食塩の買いあさりも18日には鎮静化したが、冷静さを取り戻した市民の手元に残ったのは大量に買い込んだ食塩の山だった。

広東省を例に取ると、3月16日午後2時に茂名市を皮切りに食塩の買いあさりが始まり、午後6時には全省の3分の1の地域、午後9時には全省の3分の2の地域にまで食塩買いが波及した。

18日夜までのわずか2日半の間に販売された食塩は平常時の1カ月分に相当する量であった。

広州市では17日だけで1000トンもの食塩が販売されたが、平時の広州市の1日平均販売量は180〜200トンであるという。
 
買いあさりの最中は買えたという達成感と、これで放射能汚染は予防できるという安心感に包まれていたが、落ち着いて考えてみれば、食塩に含まれる微々たる量のヨードで汚染が予防できるはずはなく、こんなに大量の塩分を摂取したら高血圧になるなど、健康によいはずがない。
 
それなら販売店に返品するしかない。こう考えた消費者たちは買い込んだ食塩を持って販売店に返品の受諾を要求した。

消費者の考えることは同じで、非常に多くの消費者が販売店に食塩の返品を求め、当然ながら販売店側はこれを拒否する。これに納得しない消費者は物価局に商店が返品に応じないと訴える。

自分がデマに踊らされて食塩を買い込んだのだから、悪いのは自分だと思うのが正常な考え方だと思うが、「自分の咎(とが)はさて置き、自分の理不尽な要求に応じない相手が悪いと非難する」ことは、日本では考えられないことだが、中国ではよくある話なのである。
 
しかも、1人だけならともかく、同様の考えを持つ人々が集団となって迫るから、「無理が通れば、道理が引っ込む」となって、広東省の一部のスーパーマーケットでは販売から7日以内であれば、レシートがあること、包装が完全であることを条件として、理由の有無を問わず返品に応じるとした。今回は特例で、食品は一律返品には応じないのが原則。
 
全国的にどれだけの食塩が返品されたかを示す数字は見当たらないが、広東省のみならず全国的に一部の商店が返品に応じたことは間違いのない事実である。

なお、17日の1日間に全国で販売された食塩の総量は37万トンで、正常時の24日分に相当する量であり、18日午後3時時点における全国の販売可能な食塩の在庫量は約133万トンであった。

・根源は中国人の科学的素養の欠如? 

3月18日に英紙「ファイナンシャル・タイムズ」の中国語版ウェブサイトに掲載された「中国にはどうして塩がないのか」という記事は、食塩の買いあさり騒動の根源は中国人の科学的素養の欠如にあると論じている。
 
2010年11月25日に"中国科学技術協会"が発表した「第8回中国国民の科学的素養調査」の結果によれば、「基本的な科学的素養を備えている国民」の割合は3.27%に過ぎなかった。

この調査は1992年から始まったが、この数字は2005年には1.60%、2007年には2.25%で、徐々に上昇はしているが、2010年の3.27%は1991年の日本(3%)に相当する。ちなみに、カナダは1989年に4%、EUは1992年に5%であり、米国は2008年に28%に達している。


日系ビジネスオンライン 北村豊の中国レポートより抜粋
(北村豊=住友商事総合研究所 中国専任シニアアナリスト)
(注)本コラムの内容は筆者個人の見解に基づいており、住友商事株式会社 及び 株式会社 住友商事総合研究所の見解を示すものではありません。

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放射線汚染のデマで男性を拘束 中国浙江省
 
中国の通信社、中国新聞社電(電子版)によると、浙江省杭州市の警察当局は21日までに、福島第1原発の事故で放射性物質による汚染が山東省の沿岸部に及んでいるとのデマをインターネット上で広めたとして、同市内の31歳の男性に対し10日間の行政拘束と罰金500元(約6000円)を科すことを決めた。
 
男性はコンピューター関連会社勤務。15日に「汚染は進んでいる。塩と干しコンブを備蓄し、この先1年間は海産物を食べないようにしよう」などとする情報を多数のネット利用者に送ったとされる。

原発事故のデマでは、上海市の警察当局も最近、2人を摘発している。(共同)

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