2012年5月21日月曜日

知られざる「原発作業員」の内幕を鋭くえぐる ・ 書評 「ヤクザと原発・福島第一潜入記」 鈴木智彦著 文芸春秋


 ヤクザ関連記事の専門ライターである著者が、ジャーナリストでは初めて作業員として福島第一原発に潜入。

 知られざる原発での作業の様子や、そこに従事する作業員と彼らを危険な作業場におくり込んで

暴利を貪る派遣業者の内幕を赤裸々にをつづった衝撃のルポ。

 著者ならではのヤクザと原発の密接すぎる関係もすべて暴露。

 フクシマ50(下記注参考)の中に3人の暴力団幹部がいることや、作業員派遣で暴利をむさぼる親分など、ヤクザにとって「最大のシノギ」としての側面も鋭くえぐる。


フクシマ50とは

フクシマ50フクシマフィフティ)2011年3月11日に発生した東北太平洋沖地震の際に福島第一原子力発電所の対応業務に従事していた人員の内、同発電所の事故

発生した後も残った約50名の作業員に対し欧米など日本国外のメディアが与えた呼称。人数はその後変動、現在は2000人程が作業に当たっている。

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他の書評より

究極の「ヨゴレ仕事」ルポ
 
 まずは、著者の鈴木さんが聞いた、ある暴力団組長の笑えないジョークをご紹介しましょう。
 
 「ヤクザもんは社会のヨゴレ、原発は放射性廃棄物というヨゴレを永遠に吐き続ける。似たもの同士なんだよ。俺たちは」
 
 確かに暴力団排除条例で追い詰められている暴力団にとって、究極の「ヨゴレ仕事」である原発ビジネスは魅力的な資金源です。
 
 ただ、両者の関係を裏付けることは簡単ではありません。ヤクザは現在進行形のシノギについては、極端に口が重くなるからです。
 
 暴力団専門ライター歴20年の著者だから聞けた彼らのホンネを紹介すると−。
 
 「原発はどでかいシノギ。電力会社と交渉して、ゼネコンと話付けて、地元の土建屋に仕事を振る。代紋なしではとても捌(さば)ききれん」
 
 「(原発の作業現場にも)ヤクザが多かったなぁ。刺青(いれずみ)…全然出してたね。指が欠けていても問題ないわ」
 
 著者がすごいのは、こうした周辺取材に飽き足らず、自ら作業員として、福島第一原発で働いたことです。担当は汚染水処理施設の設営など。着慣れぬ防護服とマスクに熱中症で昏倒(こんとう)したり、高濃度汚染区域でうっかり被曝(ひばく)したり…。
 
 命懸けの潜入取材の結果わかったのは、冷温停止に向けた突貫工事の杜撰(ずさん)さと作業員の健康管理、特に汚染度測定のいいかげんさ。
 
 こうした惨状を著者は、腕時計型カメラで撮影しました。その映像は外国特派員協会での講演や、ニコニコ動画でのインタビューの際に公開され、世界中で大きな反響を呼んでいます。
 文芸春秋 ノンフィクション局第一部 新谷学


著者紹介

鈴木智彦1966年北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。その後、雑誌・広告のカメラマンに。米国、欧州を舞台に撮影活動を行なうが、LAで作家・安部譲二の舎弟と知り合­いヤクザに興味を持つ。撮影中、イーストLAでギャングに襲われ帰国。入院中に暴力を取材テーマにしたいと考え、ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。

『実話時代BUL­L』編集長を務めた後、フリーライターに。以降、週刊誌から別冊宝島に至るまで、幅広くヤクザ関連の記事を寄稿している。著書に『ヤクザ1000人に会いました!(宝島­社)、『我が一家全員死刑』(コアマガジン)など多数。


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